こんにちは、ロプロス(@ropross)です。
先月、箱根に行ってきたのですが、そのときに箱根湯本温泉の旅館、「萬翠楼福住」に泊まってきました。
この「萬翠楼福住」には、明治11年に建てられた2棟の旧館、「萬翠楼」と「金泉楼」があり、伝統的な日本の建築に西洋建築の要素を取り入れた「擬洋風建築」として、重要文化財に指定されています。
登録有形文化財の宿は、渋温泉の「金具屋」や会津東山温泉の「向瀧」など、全国にいくつかあるのですが、重要文化財に指定されているのは現役の旅館としては、「萬翠楼福住」が唯一。
極めて貴重な歴史的建造物に宿泊し、箱根の名湯を愉しめるという、なんとも贅沢な体験ができる旅館なのです。
箱根湯本駅から歩いて6分ほど、箱根温泉発祥の地と言われる「湯場」と呼ばれる地区に、「萬翠楼福住」は建っています。
看板にも堂々と「重要文化財指定の宿」と謳われています。
創業は1625年とありますから、もう400年近い歴史があることになりますね。
おや?あれ?これ?
予想に反して目の前に現れたのは、近代的なコンクリート造りの建物。
入り口も特に変わったところはないなぁ。
ロビーも今どきの温泉宿にありそうなモダンな雰囲気。
と、思いきや、フロントに掲げられている「萬翠楼」と描かれたこの書。
なんと、これを揮毫したのは、尊皇攘夷の志士にして明治の元勲、あの木戸孝允(桂小五郎)だそうです。なんでも、「萬翠楼」という宿の名前は、木戸孝允が名付けたのだとか。
うおー、すげー!こりゃ歴史ファンにはたまらない!!
ロビーの壁には、往時の様子の描かれた絵画と、重要文化財の指定書が。
新館の部屋へと続いている階段。
ロビーの一角には、箱根の歴史や温泉に関する書籍などが並んだライブラリーが。
フロントやロビーがあるのは新館のほうで、「萬翠楼」と「金泉楼」の2棟の旧館は、この奥にあるようです。
新館と旧館の間は、まるで蔵のように重厚な扉で仕切られています。
私達が宿泊するのは、「金泉楼」の1階にある10号室です。
厳かな気持ちで室内へと足を踏み入れます。
部屋は8畳+8畳の二間続きの和室。
当時の名工が業を尽くした設えは、建築に関しては素人の私が見ても、そのへんの和風旅館とは一線を画する、歴史の重みを感じます。
一般人は気付かなような様々な趣向が細部に渡って凝らされているそうで、日本建築に詳しい人が見たら、凄く楽しめるんだろうなぁ。
鏡台の置かれた手前の部屋。夜はこちらに布団を敷いてもらえます。
机の置かれた奥の部屋。
白黒二匹のわんこがじゃれあってる様子が描かれた掛け軸。かわいい。
部屋と部屋の間の欄間には、花鳥画が描かれています。
庭園を眺められる広縁。
冷蔵庫もここに置かれています。
緑あふれる庭園。降りることができないのは残念なところ。
部屋のお風呂には檜造りの湯船が。しかも、お湯は温泉を引いています。
部屋で檜の香りに包まれながら、温泉を愉しめるってのはたまらないよねー。
細工を施されたキーホルダーのついた鍵。かなりの年季を感じるけど、いつの頃から使われてるんだろ?
タオルや浴衣類。足袋が用意されているのは嬉しいですね。
浴衣の格子模様は、2本と9本のパターンの繰り返しになっており、宿名の「ふ(2)く(9)ずみ」とかけているようです。
お茶とお菓子。
箱根銘菓の湯もちは柔らかいお餅の中に細かく刻んだ羊羹が入ったもので、柚子の香りがしてとっても美味しい。
うむうむ、いい雰囲気。
最初はまるで博物館の一室にいるかのような感覚で、なかなか落ち着かなかったものの、時間が経つにつれ、不思議と心地良く感じるようになっていきました。
少し休憩してから、大浴場へ。
全16室と部屋数が多い宿ではないので、脱衣所も小ぢんまりとしています。
扇型の湯船のあるシンプルな造りの内湯。
お湯はpH8.9のアルカリ性単純温泉で、源泉掛け流し。「真綿にくるまれるよう」とも喩えられる柔らかで肌触りのいいお湯です。
木造りの露天風呂。椹(さわら)材を使っているそうですが、これが素晴らしくいい香り!
木の香りに包まれながら、滑らかな優しい湯に身を委ねていると、なんとも満ち足りた気分になりますね。
夕食は和食会席膳で、部屋まで運んできてくれます。
豪華さはないものの、滋味溢れる品々が並びます。
前菜。ホタルイカの沖漬け、海老雲丹焼き、中着麸、姫サザエの木の芽焼き、天豆塩ゆで。
胡麻豆腐。ウニとクコの実が乗っています。
豆乳を蒸して餡をかけた空也蒸し。フカヒレがたっぷり。
カニやコハダなどの酢の物。
ヒラマサの西京焼き。
お刺身は、マグロ、ショッコ、花海老の三点。ショッコってのはカンパチの若魚のことらしい。
ハマグリと黄味ソーメンのお吸い物。
揚げ物。海老五色松葉揚げ、帆立真薯など。抹茶塩でいただきます。
海老も帆立も一風変わった衣で美味しい。
料理が乗せられていたお盆は、26,27代運慶作の鎌倉彫りで、100年以上も前から使われているものなんだとか。
デザートはスイカとビワとサクランボでした。
北海道だとビワはなかなか食べられないので嬉しい。
派手さはなくても一品一品しっかりと手をかけられた料理の数々に、満足の夕食でした。
翌朝は、部屋の檜風呂を楽しんだあとに、大浴場にも入りに行きます。
大浴場は男女入替えなので、前日とは逆の浴場へ。
こちらには「一円の湯」と名付けられた大理石造りの丸い浴槽があります。
前日入った浴場の露天風呂は木造りの浴槽だったのに対して、こちらは石造りの露天風呂。
木と石、二つの味のある浴槽を楽しめるのはいいね。
温泉宿らしいオーソドックスな朝食。
神奈川や静岡の宿って、朝食にいつもアジの干物が出るね。好きだから嬉しい。
チェックアウト前に、私達の宿泊した「金泉楼」の隣にある「萬翠楼」1階の15号室を見学させてもらいました。
こちら「萬翠楼」へも、分厚く重そうな扉で隔てられています。
15号室の本間。
まず目を奪われるのが見事な絵天井。
自然風景や故事にちなんだ様々な絵が描かれています。旅館の一室だとは思えないような華やかさには惚れ惚れします。
実際に飛んでいる鳥を下から見上げたかのうように描かれています。芸が細かいね。
床の間には何気なく飾られているこの掛け軸。これもなんと、初代内閣総理大臣、伊藤博文の書なのだとか。
ほんとだ、「伊藤博文」って書かれた印が押してあるー!
実際に宿泊できる部屋に、こんな貴重なもの飾っといていいの?
そして額縁に飾られているこちらは、尊攘派の公家で維新後は太政大臣となった三条実美の書。
その他にも、この旅館を訪れた、徳川慶喜、西郷隆盛、山内容堂、井上馨、福沢諭吉らの書も遺されているのだとか。
すごい!幕末・明治のビッグネーム達を魅了してきた名旅館ということですねー。
欄間に丸太と竹格子を使った面白い装飾が。
この15号室は全部で4間続きになっています。10人以上泊まれそうです。
実際、同窓会などに使われることも多いのだとか。
部屋の片隅の引戸の中には、建築当時からあるというコンセントが隠されています。現在でも電気が来ているのだとか。
当時の人にとって近代的な設備であるコンセントは、無粋なものと映ったんでしょうね。
山桜の一本柱。丸い柱の形に合わせて、ふすまにも曲線がつけられています。匠の技やねー。
中庭越しに、私達の宿泊していた「金泉楼」が見えます。
ほう、外から見るとこんな建物だったのか。内部の純和風の設えからは想像つかなかったけど、確かに外観は洋風の造りだね。これは面白いなぁ。
上階へは螺旋階段を登っていきます。このあたりにも西洋建築の影響が伺えますね。
「萬翠楼」の2階は4間続きの25号室、3階は2間続きの35号室と、ワンフロアに1室ずつの贅沢な造りになっています。
照明をぶら下げるところ(何ていうんだっけ?)にも細やかな彫刻が施されています。
チェックアウトしてから、旅館の裏側から、2棟の重要文化財に指定された建物を見てみることに。
国道から早川越しに見る、「金泉楼」(左)と「萬翠楼」(右)。
貴重な歴史的建造物なのに、木々に隠れてしまってよく見えないのはちょっと残念ですね。
まとめ
今回の宿泊料金は、1泊2食で19,750円でした。新館だと1000円ほど安い部屋もあるのですが、やっぱり重要文化財に指定された建物に泊まりたいですよね。
箱根の宿なので、ちょっと割高感はあるかもしれませんが、歴史や建築に興味のある方なら、存分に満足できるかと思います。
日本の温泉旅館の中には、もっと古い江戸時代の建物や、圧倒されるような豪壮な建物に泊まれる旅館もありますが、ここまで多くの偉人とのゆかりを持ち、歴史を間近に感じられる旅館はそうはないでしょう。
歴史ファンや建築に関心のある人であれば、是非ともこの「萬翠楼福住」に泊まって、文明開化の空気を味わってみてはいかがでしょうか。
ではでは、またー。
▼【公式サイト】箱根湯本温泉 萬翠楼福住 (ばんすいろうふくずみ)
(旅行日:2014年6月24,25日)